若者はあっけにとられましたが、やがて我に返ってみると、それこそまさしく、老人達から聞いた猿爺さんとその猿とに違いありませんでした。
「そうだ、そうだ」
若者は嬉《うれ》しくなって、爺さんのところへ走って行きました。
「猿爺さんじゃありませんか」
爺さんは、にっこり笑って若者を迎えました。
「とうとう見付かったかな。……猿めがあんたの村でいかいお世話《せわ》になったそうで……」
そこで若者は、村中大騒ぎをして爺《じい》さんを探してることや、病気なら村に来て養生《ようじょう》するがいいということなどを、熱心に言い立てました。
爺さんは頭を振って答えました。
「いや、この上あんたの村の人達に世話《せわ》をかけてはすまん。それに、ここにこうして寝ている方が、結局わしには気楽だからのう。……まあちょっと、あの泉の水を飲んでみなされ」
そこで若者は、何の気もなく泉の水を一|掬《すく》いして飲んでみますと、びっくりして眼を白黒させました。おいしいの何のって、蜜《みつ》と氷砂糖《こおりさとう》と雪とをまぜたようなたまらない味でした。
「わしがここまで来かかるとな」と爺さんは話してきかせまし
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