た。
「急に病気で動けなくなってしまったのさ。そこで杉の木の下に寝たがのう、喉《のど》が渇《かわ》いて仕方《しかた》ないから、猿《さる》めに水がほしいと言うとな、猿めがいきなりそこを掘り始めた。何するのかと思っていたら、その掘った穴から、あの通りうまい水が湧《わ》き出してきた。これはわしの知恵にも及ばんことで、ほとほと感心させられましたわい。……そこで、わしはその水を飲んでいくらか気持ちがよくなったがなあ、次にはお米がないという始末なんさ。で猿めを一人であんたの村にやって、お米や野菜をもらって来させたんだがなあ、お影《かげ》で助かりました。もうわしの病気もあらかたよくなったで、心配して下さらんでもよい。そう村の衆《しゅう》へも言って下されよ」
 若者は爺さんの心を動かすことが出来ないのを見て取って、村へ帰ってゆきました。帰る時にはもう猿は米をといでしまって、それを鍋《なべ》に移してたき火で煮ていました。そして若者の方へ、真面目《まじめ》くさった顔付《かおつき》でお辞儀《じぎ》をしました。

      四

 若者が猿爺《さるじい》さんに逢った話をしますと、村の人達はなぜかしらひどく感
前へ 次へ
全11ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング