抱えて、一散《いっさん》に走り出しました。子供達も後を追っかけましたが、猿の足の早いの早くないのって、またたくうちにどこへ行ったか見えなくなってしまいました。
二
不思議な猿の噂《うわさ》は、たちまち村中の評判になりました。
「どこから来たんだろう。……どうしたんだろう。……何だろう。……不思議だな」
けれど誰一人としてその猿を知ってる者はありませんでした。
ところが、その翌日になると、またひょっこりとその猿がやって来ました。やはり赤い布と鈴とをつけ、小さな風呂敷包《ふろしきづつ》みを持っていました。そして村の家の前で踊ってみせました。がこんどは、風呂敷から野菜の切端《きれはし》を取り出して、それをくれと言うようなんです。村の人達は前日の噂《うわさ》でもうよく心得《こころえ》ていますので、大根だのごぼうだの芋《いも》だのいろんな野菜をやりました。猿《さる》はそういうものを風呂敷いっぱいもらいためると、また一散《いっさん》にどこへともなく逃げ失せてしまいました。
さあ村中の噂はますます高くなりました。けれどやはりどういう猿だか知ってる者はありませんでした。
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