ろう。どういうものだね。」――私は眼を細くして、微笑んでみせた。
「あらゆることに趣味と興味とをもっています。」
 私は大袈裟に眉をしかめた。――「それは、若いうちは、何にでも興味があるだろうが、それが、特に、その、スポーツとか、碁将棋とか、釣とか、ゴルフとか……。」――私は天井を仰いだ。
「登山が好きです。」
「なに、登山……、すると、スキーもやるわけだね。それは元気があって、大によろしい。」――私は何度もうなずいてみせた。
「そこで、本社にはいる以上は、献身の覚悟で以てやってくれんければならんが、その辺はどうかね。」――私は大きく小首を傾げてみせた。
「犬馬の労を取るつもりです。」
「うむ。それもよろしいが、犬馬の労といっても、やはりその、礼儀を守らなければいかんし……そう、そこに帽子があるから、ちょっと、取ってみてくれ給え。」
 私は立上って、天井を仰ぎながら、指先で卓上をとんとん叩き始めた。
「よせよ、ばかばかしい。」
 拳固で卓上を叩いて彼は叫んだ。
 私はいい気持で、まだ重役のつもりなんだ、はっはっは……と笑ってみせた。
「いい加減にしろよ。そんな重役、窓から放り出しちまう
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