オランウータン
豊島与志雄

 今になって、先ず漠然と思い起すのは、金網のなかの仔猿のことである。動物園だったか、植物園だったか、それとも公園だったか、それは忘れた。広い金網のなかに親仔数匹の猿がはいっていた。暖い晴れた午後のこと、私はステッキを打振りながら散歩していたが、ふと、そこに足を止めた。女や子供や、背広服の男もいたようだが、大勢の人が猿を眺めていた。
 一体、金網のなかの猿を見るのは、あまり気持のよいものではない。それが人間に似ているせいか、また何だか卑猥なせいか、長く見ていると、足の裏をくすぐられるような感じだ。
 金網のなかでは、二匹の仔猿が、布を奪いあってふざけていた。よく見ると、白い裏のついた紫色の子供の帽子だ。一匹の仔猿がそれを奪って、枯木の枝に逃げのびると、くしゃくしゃなまま、頭にのっけ、眼をぱちくりやり、とんきょうな顔で、見物人たちの方を眺める。すると、も一つの仔猿がおっかけてきて、帽子をひったくり、金網の中程に逃げのび、ひょいと頭にのっけ、眼をぱちくりやり、とんきょうな顔で、見物人たちの方を眺める。それから、初めの仔猿がまた帽子を取りにくる。
 いつまでもきり
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