ゴルボー屋敷、無頼なるテナルディエの者ども、少年ガヴローシュ、マリユスとコゼットの恋、一八三二年六月の暴動、市街戦、革命児アンジョーラ、下水道中の逃走、ジャヴェルの自殺、マリユスとコゼットとの結婚、ジャン・ヴァルジャンの告白。そこに彼の第三の苦悶が生まれる。この世の有と無との戦いである。すべてを失った後、彼は死と微光との前に立つ。マリユスとコゼットとに向かって彼は言う、「……お前たちは祝福された人たちだ。私はもう自分で自分がよくわからない。光が見える。もっと近くにおいで。私は楽しく死ねる。お前たちのかわいい頭をかして、その上にこの手を置かして下さい。」かくしてパリーの墓地の片すみの叢《くさむら》の中に、一基の無銘の石碑が建った。
何故に無銘であったか? それは実に「永劫《えいごう》の社会的処罰」を受けた者の墓碑であったからである。一度|深淵《しんえん》の底に沈んだ彼は、再び水面に上がることは、いかなる善行をもってしてもこの世においてはできなかったのである。いや不幸なのは彼のみではなかった。種々の原因のもとに「社会的窒息」を遂げた多くの者がそこにはいた。ファンティーヌ、テナルディエ、エ
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