の屈辱と労役とのうちに、彼は知力とまた社会に対する怨恨《えんこん》とを得た。そして獄を出ると、彼が第一に出会ったものは、すべてを神に捧《ささ》げつくしたミリエル司教であった。そこに彼の第一の苦悶《くもん》が生まれる。神と悪魔との戦いである。苦悶のうちに少年ジェルヴェーについての試練がきた。彼は勇ましくも贖罪《しょくざい》の生活にはいり、マドレーヌなる名のもとに姿を隠して、モントルイュ・スュール・メールの小都市において事業と徳行とに成功し、ついに市長の地位を得た。しかし彼の前名を負って重罪裁判に付せられたシャンマティユーの事件が起こった。そこに彼の第二の苦悶が生まれる。良心と誘惑との戦いである。彼は自ら名乗って出て、再び牢獄の生活が始まった。しかし彼は巧みに獄を脱して、不幸なる女ファンティーヌへの生前の誓いを守って、彼女の憐《あわ》れなる娘コゼットを無頼の者の手より取り返し、彼女を伴なってパリーの暗黒のうちに身を隠した。そしてそこにおいてあらゆる事変は渦を巻いて彼を取り囲んだ。警官の追跡、女修道院の生活、墓穴への冒険、浮浪少年の群れ、熱情のマリユス、無為のマブーフ老人、ABCの秘密結社、
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