レ・ミゼラブル
LES MISERABLES

豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)叫喊《きょうかん》は

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一度|深淵《しんえん》の底に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ]
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     序

 一七八九年七月バスティーユ牢獄の破壊にその端緒を開いたフランス大革命は、有史以来人類のなした最も大きな歩みの一つであった。その叫喊《きょうかん》は生まれいずる者の産声《うぶごえ》であり、その恐怖は新しき太陽に対する眩惑《げんわく》であり、その血潮は新たに生まれいでた赤児の産湯《うぶゆ》であった。そしてその赤児を育つるに偉大なる保母がなければならなかった。一挙にして共和制をくつがえして帝国を建て、民衆の声に代うるに皇帝の命令をもってし、全ヨーロッパ大陸に威令したナポレオンは、実に自ら知らずしてかの赤児の保母であった、偉人の痛ましき運命の矛盾である。帝国の名のもとに赤児はおもむろに育って行った。やがて彼が青年に達するとき、その保母にはワーテルローがなければ
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