がら、彼は自分が今まで何をしていたかも忘れてしまい、騒々しい行列に見とれてしまって、夢でもみてるような気持ちで、そこにぼんやりつっ立っていました。
 するうちに、行列はいよいよ近づいて来まして、すぐ眼の前までやって来ました。すると、まっ先になってた一人が、松明を高くさし上げて、こちらをじっとすかし見て、ふいに声を立てました。
「いたいた……徳兵衛さんが……」
 一同の者は駆け出してきて、すぐに徳兵衛を取り巻いて、四方から松明の光をさしつけて眺めました。
「しっかりしなさい。さあ、もう大丈夫だ。徳兵衛さん……何をぼんやりしてるんです……狐《きつね》に化《ば》かされたりして……」
 背中をどんどん叩かれて、徳兵衛は初めて夢からさめたような気がしました。そしてまだ口が利《き》けないで、眼ばかりぱちぱちやっていました。
 そのようすがまったく狐に化かされた者のようでした。何しろ四日の間、着のみ着のままで、湯にもはいらないでいたものですから、顔も着物もまっ黒に汚れてしまっていましたし、社殿《しゃでん》の床下からはい出してきたばかりで、頭には蜘蛛《くも》の巣《す》までひっかかっていました。
「おや
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