打ち鳴らし、松明をふりかざし、棒を打ち振りながら、時々大きな声をそろえて呼びました。
「おーい……おーい……徳兵衛さーん……おーい……徳兵衛さーん……」
 一同はまず、狐の出そうな、そして徳兵衛の姿が見えたという、川の土手《どて》の方へやってゆき、それから次に、鎮守《ちんじゅ》の森の方へやってゆきました。

      四

 徳兵衛は、鎮守様に供《そな》えてある、御馳走を腹いっぱいに食べ、酒に酔っぱらって、社殿《しゃでん》の床《ゆか》の下に眠っていましたが、ふと眼を覚ましました。遠くの方に、何だかひどく騒々しい物音がして、それがだんだんこちらへやってくるようなんです。
「何だろう」
 眼をこすりこすり起き上がって、床の下からはい出して、森の端までいって眺めますと、大勢《おおぜい》の人が松明《たいまつ》をふりかざし、鐘《かね》や太鼓《たいこ》を打ち鳴らし、「おーい……おーい……」と呼びながら、川の土手《どて》から、こちらへやって来ます。そして時々、「徳兵衛さーん」と呼んでるようなんです。
「おや、おれの名を呼んでるようだが、おれがどうかしたのかな」
 酔っぱらった頭でそんなことを考えな
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