》が立ち始めました。第一、徳兵衛は狐の好きな肴《さかな》を持って長者の家から出て、それきりいなくなったし、次には、鎮守様に供《そな》えたごちそうが毎日毎日食い荒らされているので、近くを狐がうろつき廻ってるに違いないし、それからまた、徳兵衛は昼間姿を見せないで、夜になって森の中や川の土手を歩いているようだし、いろいろ考え合わしてみると、どうしても狐に化かされたと思われるのでした。
さて、徳兵衛が狐《きつね》に化《ば》かされたとすると、そのまま放ってもおけませんでした。狐に化かされた者は、五日も六日もふらふらと歩き続けて、しまいには森の中なんかで行き倒れになったり、川にはまって死んだりするようなことになるのです。
「徳兵衛さんが可哀《かわい》そうだ」
村の人達はそう言って、いよいよある晩、狐に化かされた徳兵衛を探しに、出かけてみることになりました。
そこで、村の壮健《そうけん》な人達が集まって、二三十人一かたまりになって出かけました。松明《たいまつ》、棒、太鼓《たいこ》、鐘《かね》、石油缶《せきゆかん》、そんなものをめいめい持っていきました。そしてそれを、どんどん、がんがん、打ち叩き
前へ
次へ
全11ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング