、うとうとと昼寝を続けました。
 村の人達は、雨が降ったのを有難《ありがた》がって、ごちそうや酒を毎日毎日鎮守様に供えに来ました。徳兵衛一人では食べきれないほど、たくさんの供物《くもつ》がありました。

      三

 長者の家では、徳兵衛が出ていったきり戻って来ませんので、どうしたのかと心配し始めました。それを聞いて村の人達も、やがて心配し始めました。
 一日、二日、三日……いくら待っても徳兵衛は姿を見せませんでした。どこへ行ったのか、死んだのか生きてるのか、さっぱりわかりませんでした。
 するうちに、徳兵衛らしい姿を見かけたという者が出て来ました。鎮守《ちんじゅ》の森の中をやたらに歩き廻っていた、という者もありますし、川の土手《どて》をよろよろ歩いていた、という者もありました。けれどどれもみな夜のことで、遠くから見かけたばかりで、はっきり徳兵衛だとはわかりませんでした。その上、近づいて行こうとすると、彼はびっくりしたように逃げていったというのです。
「不思議だなあ」
 皆首をひねって考えました。
 すると、誰言うとなく、徳兵衛は狐《きつね》に化《ば》かされたんだという噂《うわさ
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