きつね》の奴《やつ》め、食い荒らしに来ていやがった。もったいないことだ。おれがこれから一つ、番人についていてやろうかな。そして鎮守《ちんじゅ》様が召し上がった後を頂戴《ちょうだい》する分には、何も差し支《つか》えはなかろう。うむ、そうだ。……それにしても、村の人達に見つかっては、具合《ぐあい》が悪い………」
そこで彼は、方々探し廻って、結局|社殿《しゃでん》の床の下を隠れ場所に選びました。
それから彼は、もう村の中へ戻って行きませんでした。昼間は、社殿の床の下にもぐりこみ、古むしろを敷いた上に、木の切株《きりかぶ》を枕にして、うとうと昼寝をしました。社殿の床は高くて日陰で、涼しい風が吹き込んできて、いい気持ちでした。晩になると、のっそりはい出してきて、神殿の前に供えてあるものを飲み食いしました。退屈《たいくつ》すると、森の中や、少し遠く川の土手《どて》なんかを、ぶらぶら歩き廻りました。それから夜遅く戻ってきて、蚊《か》にさされないよう、頭からむしろをかぶって寝ました。朝早く起き出して、またごちそうや酒を頂戴して、いっぱいになった腹と酔っぱらった体とを、床の下のむしろの上に投げ出して
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