いました。
徳兵衛はしばらくぼんやりしていましたが、思い出したように、肴と酒とを神殿の前に供えて、それからじっと考えこみました。
「またあいつが戻ってくるかも知れない。ちょっと番をしていてやろう」
そこにかがみこんで待ち受けましたが、狐はもう戻って来ませんでした。するうちに、うまそうなごちそうや酒の匂《にお》いが鼻についてきて、辛抱《しんぼう》しきれなくなりました。
「狐でさえ食べてるんだから、おれが少し頂戴《ちょうだい》したところで、まさか罰《ばち》は当たるまい」
そう思って、ほんの少しのつもりで手を出したのが始まりで、だんだん大胆《だいたん》になってきて、ごちそうをやたらに食い、酒をやたらに飲みましたので、腹はいっぱいになり酒の酔いは廻って、いい心持ちにうとうと居眠《いねむ》ってしまいました。
眼を覚ました時は、もう日が高く昇っていて、じりじりとした暑さになっていました。彼は酔っぱらったぼんやりした頭で考えました。
「ひどい暑さだなあ。こんな中をたんぼに出るのは、とてもかなわない。よい工夫《くふう》はないかな。……まてよ、せっかく村の人達が供《そな》えたごちそうや酒を、狐《
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