それから、皆で、飲んだり食べたり歌ったりしました。
 その酒盛の一日がすむと、皆田畑に出かけて勇ましく働きだしました。

      二

 その村に、徳兵衛《とくべえ》という男がいました。ひとり者で、少し薄馬鹿《うすばか》ななまけ者で、家を一軒もつことが出来なくて、村の長者の物置小屋に住まわしてもらっていました。
 鎮守の社で雨の御礼の酒盛があった翌日の朝早く、徳兵衛は長者の言いつけで、肴《さかな》を入れた籠《かご》と大きな酒の徳利《とくり》とをさげて、鎮守《ちんじゅ》様に供《そな》えに行きました。
 そして、村はずれの森の中の、鎮守の社《やしろ》の前まで来ますと、びっくりして立ち止まりました。神殿《しんでん》の前にいろんなごちそうが並んでいますところに、大きな狐《きつね》が一匹うずくまっていて、ぺろぺろごちそうを食べています。
「おやあ……太い畜生《ちくしょう》だ」
 肴籠《さかなかご》と酒徳利《さかどくり》とをそこに置いて、げんこつを握り固めながら、社の上に飛び上がりざま、狐に飛びかかっていきました。と、狐はひらりと身をかわして、横っ飛びに森の中へ逃げていって、見えなくなってしま
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