ことが幾日《いくにち》か続いたある日、涼しい風が吹きだして、山の向こうからまっ黒な雲が、むくむくとふくれ上がってきました。
「そら雲が出た……まっ黒な大きい雲だ……だんだん空に広がってきた……今日は雨が降るぞ……」そんなことを言い合って、人々は躍《おど》り上がらんばかりに喜びました。そのうちにも、雲は次第《しだい》に空一面に広がって、あたりが薄暗《うすぐら》くなったかと思うまに、ざーっと大粒の雨が降り出しました。そして一度降り出すと、まるで天の底がぬけたかと思われるくらい、二日の間、大降《おおぶ》りに降り続きました。
川の水はいっぱいになり、水田にはたっぷり水がたまり、畑の土は黒くしめり、作物は生き返ったように伸び上がりました。そのありさまを、雨の後の晴々《はればれ》とした日の光の中に眺めた時、村の人々は涙が出るほど喜びました。
「これもみんな鎮守《ちんじゅ》様のお影《かげ》だ」
そう言って、皆は鎮守の社《やしろ》で御礼の酒盛《さかもり》をしました。それぞれ出来る限りのごちそうをこしらえ、赤の御飯をたき、金持ちは大きな酒樽《さかだる》まで買ってきて、まず第一に鎮守様に供《そな》え、
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