、酒の匂《にお》いがしてるよ」と誰《だれ》かが言いました。
「なるほど、徳兵衛さんは酔っぱらってる。……化《ば》かしといて酒を飲ませるたあ、狐《きつね》も開けてるな」
一同の者は喜び勇んで、徳兵衛を捕まえて胴上《どうあ》げをして、わいしょわいしょと村の方へ運んでいきました。
徳兵衛は皆から宙に支《ささ》えられながら、今までのことをぼんやり思い出してみました。そして、まったく本当に狐に化かされたのじゃないかと思いました。思い始めると、どうしてもそれに違いないような気になりました。
「まったくおれは狐に化かされたのかな」
そして彼は、村に帰って皆から何を聞かれても、ちっとも覚えていないと答えました。
「まったく夢のようだ」
いくら考えても、酒を飲んだりごちそうを食べたりしたことだけで、その他のことは夢のようにぼんやりしていました。そしてしまいには、本当に化かされたんだと自分でも思い込んでしまいました。
村の人達はもとよりそれを信じていました。そして徳兵衛には、「狐に化かされた徳兵衛さん」という長いあだ名がつきました。
[#ここから2字下げ]
ひでりは恐い、
ひでりの後には、
狐が
前へ
次へ
全11ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング