しすぎます。お月見の時に一晩だけお城の門をすっかり開いて、城下の人達を自由にはいらせて、皆で踊らせたらどんなにかおもしろいことでございましょう」
 王子も傍《そば》から申されました。
「それはおもしろい。お父様、そういたそうではございませんか」
 二人がしきりにすすめますものですから、王様も承知なさいました。そしてすぐに、その用意を家来《けらい》に言い付けられました。
 その晩は大変な騒ぎでありました。王様は櫓《やぐら》に上がって、大勢《おおぜい》の家来達と酒宴《しゅえん》をなされました。お城の門は表も裏もすっかり開け放されて、城下の人達が大勢はいって来ました。皆美しく着飾《きかざ》って、お城の庭で踊りを致しました。方々でいろいろな音楽も奏《そう》されました。晴れた空には月が澄みきっていました。燈火《あかり》は一切ともすことが許されませんでした。お城全体が、月の光りと音楽と踊りといい香《にお》いとで湧《わ》き返るようでした。
 王子はお守役の老女と二人で、そっと裏門から忍び出られました。そして老女を白樫《しろかし》の森の入口に待たせて、自分一人森の中にはいってゆかれました。
 ところが
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