せ」
 王子はもっとそこにいたく思われましたが、姫からそう言われて仕方なしに帰られました。いつのまにか、矢車草《やぐるまそう》の花をつけた森の精が出て来て、王子を城の庭まで送って来ました。

      二

 それから王子は、月のある晩はたいてい白樫《しらがし》の森の中に行って、森の精達と遊ばれました。その上千草姫からいろんなことを教えられました。森の精達は、もとは野原に住んでいる野の精でありましたが、野原が開かれてたんぼにされてしまいましたので、今では森の中に隠れてしまって、森の精となったのでした。そして千草姫は、新しい森の精と元からの森の精との女王となっているのでした。それで姫は元の野原のことも、今のたんぼのことも、前からすっかり知っていました。今年の夏にはひでりがあるとか、秋には洪水《こうずい》があるとか、そういうことを前から言いあてました。王子はそれを聞かれると、いちいち父の国王に申し上げました。国王は笑われましたが、王子があまり何度も申されますので、おしまいには試《こころ》みにその用心をされました。
 夏にひでりがしましても、山奥の泉から水が引いてありましたので、百姓達は少
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