向こうをむいて歩き出しました。王子は非常に喜ばれて、その後について行かれました。城の裏門の所まで参《まい》りますと、門がすうっと一人で開きました。森の精と王子とがそこを出ると、門はまた元の通り音もなく閉じてしまいました。
 城のすぐうしろには、白樫《しらがし》の森と言われている大きな森がありました。森の精はその中にまっ直《すぐ》にはいってゆきました。王子も黙ってついて行かれました。ところが森の中程《なかほど》に来ると、ふいに森の精の姿が見えなくなりました。王子はびっくりしてあたりを見廻されますとすぐ前に森の中に広い空地《あきち》が開けていまして、青々とした芝が一面に生えており、その中にいろいろな花が咲いていました。芝地《しばち》のまん中には、赤や黄や白の薄い絹《きぬ》の衣《ころも》を着、百合《ゆり》の花の冠《かんむり》をかぶった、一人の女が立っていました。そして王子を見て、微笑《ほほえ》んで手招きしました。それを見ると王子は、何だか亡くなられたお母様を見るような気がして、恐《おそ》れ気《げ》もなくその側に寄ってゆかれました。
「まあよく来られました」とその女は言いました。「私は千草姫《
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