様は月に昇ってゆかれたように思われてなりませんでした。それで、じっと月を見ては亡くなられたお母様のことを考えていられました。
王子が八歳になられた時、ある晩やはりいつものように庭に出て、一人で月を見ていられますと、どこからともなく一人の小さな、頭に矢車草《やぐるまそう》の花をつけた一尺《いっしゃく》ばかりの人間が出て来ました。そして王子の前にひょっこりと頭を下げました。
王子はびっくりされました。そんな小さな人間はまだ見たことも聞いたこともありませんので。けれども、王子は姿はやさしく心は美しい方でしたけれど、後に国王となられるほどの人でありますので、非常に強い勇気を持っていられました。それで落ち付いた声で、一尺法師《いっしゃくほうし》にたずねられました。
「お前は何者だ?」
一尺法師は歌うようなちょうしで答えました。
「森の精じゃ。お城のうしろの、森の精じゃ」
王子は微笑《ほほえ》んでまたきかれました。
「何しに来たのだ?」
「王子様をお迎えに」と一尺法師は答えました。「千草姫《ちぐさひめ》のお使いで、お城のうしろの森の中まで、まあずまずいらせられ」
そう言ったまま森の精は、
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