ってしまいますでしょう」
 王子はその言葉を聞かれると、何故《なぜ》ともなく非常に淋しく悲しくなられました。そして二人は長い間黙ったまま、悲しい思いに沈んでいました。月がだんだん昇ってきて、ちょうど真上になりました。
 その時、千草姫《ちぐさひめ》はふと頭を上げて月を見ました。「もうお別れする時が参《まい》りました。これを記念にさし上げますから、私と思って下さいまし」
 そう言って、千草姫は片方の腕輪《うでわ》を外《はず》して王子に与えました。
 その時、どこからともなくいろんな色の小鳥が出て来て、千草姫のまわりを飛び廻りました。王子はびっくりしてその小鳥を眺められました。
「これでお別れいたします」
 そういう声がしましたので、王子はふり返って見られると、もう千草姫の姿は見えないで、そこにまっ黒な大きい鳥がいました。くちばしに千草姫の片方の腕輪をくわえて、羽は皆|百合《ゆり》の花びらの形をしていました。
 その鳥は王子の方へ一つ頭を下げたかと思うと、もう翼を広げて飛び上がりました。王子は一生懸命にその尾《お》にすがりつかれますと、尾だけがぬけ落ちて王子の手に残りました。あたりの小鳥は
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