っていました。王子はいきなり姫にすがりつかれました。
「よく来て下さいました。とうとうお別れの時が参《まい》りました」と姫は言いました。
王子は嬉しいやら悲しいやらで、口も利《き》けないほどでありましたが、しばらくすると、いろいろなことを一緒に言ってしまわれました。
「なぜお別れしなければならないのですか。なぜ私をちっとも迎えに来て下さらなかったのですか。お月見の晩にここに来ましたのに、なぜ逢って下さらなかったのですか。あなたは亡くなられたお母様ではありませんか。言って下さい。私に聞かして下さい。私はもう側を離れません。お城の中にも帰りません」
千草姫は何とも答えませんでした。そして王子の手を取ったまま、芝生《しばふ》の上に坐りました。
「私はあなたのお母様ではありません。けれど私を母のように思われるのは、悪いことではありません。私達は、あらゆるものを生み出す大地の精なのですから。ただ悲しいことには、いつかは私達の住む場所がなくなってしまうような時が参《まい》るでしょう。私達は別にそれを怨《うら》めしくは思いませんが、このままで行きますと、かわいそうに、あなた方人間は一人ぽっちにな
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