はもうじっとしていることが出来なくなられました。その日の晩は、ちょうど満月で、いつもより月の光りが美しく輝いていました。
王子は一人で、お城の裏門の所まで忍び寄られましたが、門は堅く閉め切ってありました。王子は、口惜《くや》し涙にくれて、誰か門を開いてくれるまでは、夜通しでもそこを動くまいと、強い決心をなされました。
その時、不思議にも、門の戸がすうっと独《ひと》りでに開きました。王子は夢のような心地《ここち》で、そこから飛び出してゆかれました。
四
木が無くなった森の跡は、ちょうど墓場《はかば》のようでした。大きな木の切株《きりかぶ》は、石塔《せきとう》のように見えました。王子はその中を飛んでゆかれました。まだ木立《こだち》が残ってる奥の方の空地の所まで来て、王子はほっと立ち止まられました。見るとそこには誰もいませんでした。「千草姫《ちぐさひめ》!」と王子は叫ばれました。何の答えもありませんでした。
しばらくすると、王子のすぐ側でやさしい声が響きました。
「王子様!」
王子はびっくりされて、今まで垂れていた頭を上げて見られると、そこに千草姫《ちぐさひめ》が立
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