、五穀《ごこく》を作る田畑もたくさんいるようになったのです。誰も反対する者がなかったので、王様も金持の願いを許されました。
 王子はそれを聞かれて非常にびっくりされ、いろいろ王様に願われましたが、もう許してしまったことだからといって、王様は聞き入れられませんでした。
 王子は悲しくて悲しくて、毎日ふさいでばかりいられました。けれどもそんなことには頓着《とんちゃく》なく、白樫の森は一日一日と無くなってゆきました。
 ただ不思議なことには、森の大きな木が切り倒される度《たび》に、いろんな声がどこからともなく響きました。――鳥、鳥、赤い色――鳥、鳥、青い色――鳥、鳥、紫――鳥、鳥、緑色――鳥、鳥、白い色……そしてその度ごとに、赤や青や紫や白や黒や黄やその他いろんな色の鳥が、森から飛んで逃げました。王子は森の側に立って、鳥の飛んでゆく方を悲しそうに眺められました。
 けれども、きこり共にはそれらの声が少しも聞こえませんでしたし、また彼等は、いろんな色の鳥を見ても別に怪しみもしませんでした。森の木はずんずんなくなってゆきました。
 いよいよ、森の奥の空地《あきち》の近くまで木がなくなった時、王子
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