り立てて云うほどのこともないような細々《こまこま》としたことにもそれぞれその価値があって、これがなかなか馬鹿にならないものであることを知った。季節によって、卵の値段には幾サンチームかの上り下りがある。彼女にはその卵の値段にも興味がもてるものだと云うことが解った。
夏だったので、彼女はよく野良へ行って、百姓が作物を穫《か》っているのを見た。明るい陽ざしを浴びていると、彼女の心もやっぱり浮き浮きして来るのだった。
やがて、秋が来た。良人は猟をしだした。そして二匹の犬、メドールとミルザとを連れて、朝から家を出て行った。そんな時に、彼女はたったひとりで留守番をしているのだが、良人のアンリイが家にいないことを、別に淋しいとも思わなかった。と云って、彼女は良人を愛していなかったわけではない。充分愛してはいたのであるが、さりとて、良人は自分がそばにいないことをその妻に物足りなく思わせるような男でもなかった。家へ帰って来ると、二匹の犬のほうがかえって彼女の愛情を攫《さら》ってしまうのだった。彼女は毎晩、母親のように、優しく犬の世話をした。暇さえあれば、二匹の犬を撫でてやった。そして、良人にたいしては、使おうなどとは思ってもみなかったような、さまざまな愛称をその犬につけてやったりした。
良人は彼女に猟のはなしをして聞かせた。それが良人の十八番《おはこ》だった。自分が鷓鴣《しゃこ》に出あった場所を教えたり、ジョゼフ・ルダンテューの猟場に兎が一匹もいなかったことに驚いてみせたりした。そうかと思うと、また、アンリ・ド・パルヴィールともあろう自分が追い立てた獲物を、町人の分際で横あい[#「あい」に傍点]から射とめようという魂胆で、自分の領地の地境のところばかりをうろうろしていた、アーヴルのルシャプリエという男のやり[#「やり」に傍点]口にひどく腹を立てたりした。
「そうですわねえ、まったくですわ。それは好くないことですわ」
彼女はただそう相槌《あいづち》を打ちながら、心ではまるで別なことを考えていた。
冬が来た。雨の多い、寒いノルマンディーの冬が来た。空の底がぬけでもしたように、来る日も来る日も、雨が、空に向って刄《やいば》のように立っている、勾配の急な、大きな屋根のスレートのうえに降りつづけた。道という道は泥河のようになってしまい、野はいちめんの泥海と化した。聞えるのは、ただどう
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