云った恰好をして歩いている。やがて、頭立った将校があつまって、部下の将兵を民家に割りあてた。僕のうちには十七人、隣りの狂女のところには十二人来ることになったが、その十二人のうちには少佐がひとりいた。これがまた、ひどく頑冥な老朽士官で、鼻ッぱしの荒い、気むずかし屋だった。
最初の幾日かのあいだは何ごともなく過ぎた。その将校には、前もってこの家《や》の主婦が病気で隣室に寝ていることが耳に入れてあったので、彼のほうでも、そのことは別に気にもとめなかった。ところが、そうこうするうちに、彼はその女がただの一度も姿を見せないことに業《ごう》を煮やして、病気のことを訊いてみた。すると、この家の主婦は悲しい悲しい目にあったことが因《もと》で、十五年このかた、ああして寝たッきりであるという返事。しかし、彼にはどうもそれが真実《ほんとう》だとは思われなかった。哀れな狂女が床を離れずにいることを、根性まがりの女の自尊心が然らしめるところだという風に釈《と》った。普魯西の兵隊などには会うまい。断じて口を利くまい、触れもしまい、そう云うはら[#「はら」に傍点]でああして床を離れないのだと思った。
そこで将校
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