窓から一《ひ》と思いに飛び降りて、自分には脱《のが》れることの出来ない単調なこれらの出来事と手を切ってしまいたいと私に思わせた。
私は毎日顔を剃りながら我とわが咽喉をかき切ってしまおうという聞分けのない[#「聞分けのない」に傍点]衝動を感じた。頬にシャボンの泡のついた、見あきた自分の顔が鏡に映っているのを見ていると、私は哀しくなって泣いたことが幾度となくある。
私にはもう自分がむかし好んで会った人々の側にいることさえ出来なくなった。そうした人間を私はもう知り尽してしまったのである。会えば彼らが何を云い出すか、また自分が何と答えるか、私にはもうちゃんとわかっているのだ。私はそんなにまで彼らの変化に乏しい思考のかた[#「かた」に傍点]や論法のくせ[#「くせ」に傍点]を知ってしまった。人間の脳などと云うものは、誰のあたま[#「あたま」に傍点]も同じで、閉め込みをくった哀れな馬が永久にその中でかけ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]っている円い曲馬場のようなものに過ぎまい。吾々人間がいかにあくせく[#「あくせく」に傍点]してみたところで、いかにぐるぐる※[#「廴+囘」、第4水準2−1
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