て、撞球場への路を歩いていた。昨夜の交番のところから、撞球場までは二丁とない路のりである。家と家とに囲まれて、小さな空地などが町に珍らしい春草を見せていた。家々のどの軒にも、昨夜の事件が噂《うわ》さされている心地だった。
「いや僕は、たったひとつ、その兇器をかくす方法があったと思うんだ」私が云った。「僕が警察官だったら、一番にそれを調べて見るのだったが……」
「どんな方法だい、いったい?」と話好きな、この事件にも直ぐに興味を持った友が訊いた。
「あの場合、兇器を室外に運ぶ方法があったと思うんだ。尤も、これは取調べの上でなくては確実とは云えないが」
「だって、誰も外へ出ないし、窓も扉も閉まっていたと云うじゃないか」
「だが」と私は撞球場のだんだん近くなっていることを感じながら云った。「たったひとり、あの時室外に出たものがあるんだよ」
友は、誰だ? と訊ねる代りに、ひどく驚いた表情で私を見た。
「若しその人間が兇器を持って出たとしたら、あの場合、たしかに一時的にでも係官の眼をくらますことが出来た筈だ。そして僕は、間違いなく僕の考えが当っていると思うのだが――」
「誰だい、それを持出したの
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