なるともう五里霧中だった。他に何等の手掛りもない事件であった。
窓は、夕暮のほの寒さに皆ぴったりと閉めてあった。入口は、やはりこの商売の常で磨硝子《すりガラス》の扉が閉されていた。床にもさけ目などは全然無かった。帳場の押入れまで係官の一行は調べたのである。七人の男も、ひとりとしてその間、この室から出て行ったものはないのである。そして兇器は何処にもない。
傷は、たしかに短刀様の物でやられたことを物語っている。警察医はこの点署長に向って、若し見込み違いの時は直ちに辞表を呈出する、と断言したくらいであった。
南洋の男をつれて、殺されたもじりを運んで、一行はついに警察署へ引きあげて行った。が問題の兇器の行方は、いったいどう解決するのであろうか。よし南洋の男が犯行を自白するようなことがあったとしても、致命傷を作った兇器の出現が望めない時、社会は又警察が罪人を造る――法以外の鞭《むち》によって心にもない自白をなさしめた――そう騒ぎ立てるのではあるまいか。
翌朝の新聞には、この事件が相当な標題《みだし》で報ぜられていた。謎の兇器の行方と、小標題がついていた。
……私は話好きな友とたずさえ
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