は?」とうとう友が口に出して訊いた。私は立止った。私達は小さな空地の傍まで来ているのであった。
「若し僕の考えが当っているとしたら、兇器は先ずこの空地の、その辺の叢《くさむら》に捨てられてある筈だが――」
 私の言葉に、友は犬のような素早さで早速空地へ這入って行った。それからきょろきょろと草の間を眺め廻した。ステッキの尖端が柔かい春の土の上を縦横に動いた。
「いや捜すのは待ってくれ」私は懸命な声を出して友を止めた。「若しそこに兇器が見付かったら、却って僕は苦しむようなことになる気がする。止めてくれ止めてくれ。その代り僕のそう云う考えだけを話すから」
 私は、あのゲーム取りの娘の、涙にくれる姿を胸に描いて踵《くびす》を返した。
 あの南洋の男とゲーム取りとが、兄妹か何かであったとして、止むに止まれぬ事情があって、それであの黒子の男に対して、苦心の末にながい間の復讐をとげた――そう考えた場合、覚えの腕で短刀を投げて、首尾よく目的を果した南洋の男が、短刀に結んだ紐を引いて、それを突嗟《とっさ》の間に自分の手許から袖の中にでもかくしたのだ、としたら……事件が解って人々が騒ぎはじめる。ゲーム取り
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