と、少し覚えのあるものなら、充分あの男を斃すことが出来るのだ。ちょっと跼んで、短刀をそこへ投げつける格好をやって見い」
係官は、この南洋土人のような色の黒い男を、特に我々にはしなかったお前[#「お前」に傍点]と云う言葉で呼んだ。そして押しつけるような声音でそう云うと、もう罪人を扱うような態度で、その新しい撞手の肩の辺を押しやって、無理矢理球台の下へ跼ましていた。
男の顔は蒼ざめていた。それから身体全体が、ぶるぶる顫《ふる》えているのが私にさえ見てとれた。
「とに角、お前は一応本署まで連行する。兇器はいったい何処へやったのだ」
係官のその言葉は鋭かった。
「貴様|白《しら》を切って解らずにいると思うか! 貴様はこの間まで曲馬団にいたではないか! 印度《いんど》人に化けて投剣とか云うのをやっていたではないか。こら! 何故殺したか、そんなことは後でよろしい。兇器はいったい何処にかくした?」
私はハッと思い当ることがあった。そうして捜査官の鋭さに一驚した。そうだそうだ、確にこの男はあの曲馬団にいた偽《にせ》の印度人に違いない。この撞球室へも今日はじめての客であった。来る早々から何か含む
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