いゲーム取りは、そうした感情には全然関係のないらしい、幾分は子供らしいおびえた様で警官の様子ばかりを眺めていた。
 第四番目に取り調べられたのは禿頭《とうとう》の老人であった。これは商売人の隠居で、腰も低く、交番の巡査が相識の間であったから、一通りの訊問以外には何も訊かれなかった。
 私には様々なことが訊ねられた。ぐぐぐぐと云う呻《うめ》きの聞えた当初から、その時の七人の位置、ゲーム中の黒子の男の言葉、態度、面識、感じ、そんなものまでが細々と訊ねられた。
 憎々しい相手ではあった。己れの勝に乗って、相手の技倆《ぎりょう》まで云々するような下品な黒子の男ではあった。が死者に対する礼――そうしたものを感じた私は、特に個人的なそんな感情まで答えることはしなかった。又、この事件では、それ程の必要はなかったのである。
 最後に、チョークを拾った新しい撞手が訊問された。
「いいか」と係官が云った。「この傷の深さからすると、これは兇器を手に持って直接突込んだものではない。それから方向から云うと、傷は、恰度お前がチョークを拾うためにこの台の側に跼んだその辺からやられた、そんな見当になる。ここから投げる
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