れたが、この青年には犯人としての疑いは少なかったのか、係官の訊問は割に早く済んだ。
 次には「ざまあ見ろ」と叫んだワイシャツの青年が取り調べられた。がこれは、当時被害者とは距離の上で誰よりも遠かったのと、「ざまあ見ろ」と競技に熱中した結果と云うのでやはり相当なところで訊問を打ち切られた。
 三番目に取り調べられた男は、二十七八歳の商人風で、角帯に陸上競技のメダルをぶら下げていると云った風な、頭も真中からぴったりと分けていたが、これは住所氏名を問われて何か逡巡するところがあった為、人よりは余計に不必要と思われるまでを追及して訊問された。
「何分にも店が姦《やか》ましいものでございますから、途中で撞球などしていたことが解りましては……」
 その男はそう云ってちょっと頭をかいた。それからゲーム取りの方をチラと盗み見た。
「何処を見る? こら!」
 係官は苦笑をしのびながら叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]《しった》した。角帯の男の瞳には、その自分の権威なきみじめな様子を、想うゲーム取りに蔑んで見られはしまいかと云う馬鹿な危惧が、ありありと表われていたからである。
 十七歳と云う美し
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