て、警官が番に立って、そして死体を取り囲んで――それは、何かひえびえとさえする光景であった。暫くして捜査課の一行も乗り込んで来た。がここではその冗々《くだくだ》しい取り調べの様を叙述する必要はない。黒子の男は確に短刀様の兇器で殺られたものであること、年齢は三十六七歳で、懐中には大型|蟇口《がまぐち》一個、現金四十五円参銭、それから女持金指輪二個を所有していた他、身許を知るよすがともなるようなものは一切発見出来なかったこと――くらいで充分であろう。いや確かに他殺と認められたに拘わらず、その兇器が、室内隈なく、それから七人の男達の検査が厳重にされたにも拘わらず、ついに発見出来なかったことだけは書き落してはならない。
ゲーム取りの言葉によれば、黒子の男は福原《ふくはら》某と呼んで、話の様子ではこれと決った商売はないらしい。近くとのことではあるが家もどのあたりか解らない。三ヶ月ばかり前から、毎夜のようにやって来る常連のひとりだとのことであった。
七人の男が次から次へ調べられて行った。
法被の青年は洗濯屋の息子であった。この男は被害者の一番身近にいたと云うので、くどいまで当時の状況を訊ねら
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