やるぞ」
朝になって気の強くなっている田中君である。昼近くまでかかって屋敷の周囲を実に微細に捜査した。だが、前日と変っている点は、門のあたりの溝近くに一ヶ所、荷車でも落ち込んだかと思う大きな轍《わだち》の穴が出来ているばかりで、他に何の特別なものも発見は出来なかった。
あの向いの主人は、たしか職業が知れないとか聞いている。以前は上海《シャンハイ》あたりをウロついていたとかの噂もある。ひょっとすると、あいつ、昨日の暴風雨の晩に訪ねて来た古い悪仲間を、暴を幸いに殺っつけて、そして朝までに死体の始末をちゃんとしたのではあるまいか。出来ない理屈ではないではないか――
田中君はそれから三時間ばかり、門内に立って向いの家をにらみつづけていた。田中君はその恐ろしい感情で、自分が三時間ものながい間、庭に立ちつくしていることをすっかり失念していたのである。
が三時間たって、田中君は馬鹿々々しいこの物語の結末に逢着した。
二人の、半纏着の人間が、その門の前までやって来て、行くのか帰るのか、例の轍の穴を指しながら大声に話したには――
「こん畜生だよ、あの暴のもう十一時過ぎていたナ、ここまで来るとこ
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