して、たとえ幸運が我々の側を見すてずに、スレーターが頸骨《くびほね》を挫折して即死してしまったとはいえ、この一事あるがため、もしさもなければ犯罪上の最大な傑作として、人々を言葉もないほど嗟嘆《さたん》させたでもあろうほどの玉に、一つの瑕《きず》をつけてしまったのである。
『しかし今や我々は、首尾よく列車を二キロメートルまでも、すなわち一|哩《マイル》以上も、支線の中へ引込んだ。この線は、ハートシーズの廃坑へ、以前英国の炭坑として最も大きなものの一つだったその場所へ通じているのだ、正確にいえば、通じていたのだ。が、諸君は、しかしこの廃線へ列車が進入して行ったことを一人も見たものがないとはおかしいという疑問を必ず発するだろう。自分はそれに対して次のように答える。この引込線は全線に亙《わた》って深い切通しの底を走っているのだ。そして何人かが切通しの縁に立っていない限りは列車の姿の眼に留まるはずがないからだと。いや、そこには実際一個の人間が立っていたのだ。それはかくいう自分である。自分がそこで何を見たか、それを諸君に語るであろう。
三
『これより先き、一人の我が助手は、例の列
前へ
次へ
全34ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドイル アーサー・コナン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング