紐で自分の手頸《てくび》にしっかりと結びつけられてあったのだ。この事実は、その時には決して重大なことには見えなかった。が、やがて展開されるべき未曾有の出来事は、その中《うち》にきわめて深長な意義を持っていたのであった。カラタール氏は駅長室に案内された。その間この供の男は室の外に待っていた。
 カラタール氏は今日の午後、中部|亜米利加《アメリカ》から入港したばかりであるが、緊急な事件が突発したため、一分も猶予することなく至急|巴里《パリー》まで帰らなければならなくなった。ところが彼は倫敦《ロンドン》行の急行に乗遅れてしまったのだ。そこで臨時急行列車を仕立てさせて飛んで行くほかはない。金は問題ではない、時間こそ凡《すべ》てである――と云った。
 駅長のブランド氏は電鈴《ベル》を押して運輸課長のポッター・フード氏を呼んだ。そして五分間内に手筈をことごとく整えさせた。別仕立の列車は四十五分以内に出発させることが出来る。前路の障害なきを期するため、それだけの時間は絶対的に必要なのだ。二輌の客車が、後部に車掌乗用車を添えて、強力な機関車に牽引されることになった。第一の客車は、単に振動を少なくする目
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