、人々に感動を与えることが薄かったという事情もあるので、従って、記者がその事件について、集めた材料から知り得た限りの確実さをもって、ここにその顛末を述べるのも無駄ではないと信ずる次第だ。
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一
千九百――年。それは六月三日のことだった。一人の旅客が――ルイ・カラタール氏という仏蘭西《フランス》名の紳士――リヴァプール港にある倫敦《ロンドン》西海岸線中央停車場の駅長ジェームス・ブランド氏に面会を求めた。旅客は小柄な中年の紳士で、その妙に猫脊のところが、見るからに脊髄骨の不具であることを物語っていた。その紳士にはひとりの連れがあった。それは骨組のがっしりした堂々たる男だった。が、その男のいかにも恭《うやうや》しげな態度と、絶えずあたりに眼をくばっている様子とで、彼が紳士の従者であることが読まれた。こころもち黒みがかった皮膚の色合では、おそらくスペイン人か南アメリカ人だろうと想像された。見れば、そこには一つの不思議なことがあった。小型の黒革製の文書袋をこの男が左手《ゆんで》に携えていたのだ、そして、それは居合せた一人の事務員の鋭い観察眼によると、革
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