一台の機関車と、二輌の客車と、一輌の車掌車と、五人の人間《ひと》とが、一直線の線路の上で消えて無くなろうとは! そうだ、もう一時間経っても確とした報知がないなら、僕はコリンス方面監察といっしょに現場《げんじょう》へ急行しなければならないだろう。』
けれども遂に、ケニヨンからの次のような今一通の電報という形をとって、駅長のいわゆる「確としたこと」の一端が洩れて来た。
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『臨列の機関手ジョン・スレーターの死体を、当駅より二|哩《マイル》四分の一の地点なる「はりえにしだ」の藪中に発見したることを悲しむ。機関車より墜落し長堤を転がりて藪中に落ちたるもの。致命傷は頭部の負傷。附近ただいま精査中なるも列車の行方依然不明。』
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かくてその夜、駅長のブランド氏は、探偵長として鉄道会社に聘《へい》せられているコリンス方面監察と共にケニヨンへ向って出発した。二人は翌日を丸一日捜索のために費した。が、列車の行方は全然解らなかった。事実の解明を可能に導くべきような推測さえも立てるわけには行かなかった。それと同時に、しかし、コリンス方面監察の報告書によると――それは現在記者の卓上に置かれてあるのだが――解明の可能性は決して思ったほど乏しいものではないようだ。報告書にはこう書いてあった――
『両駅間の軌道沿線には、炭坑の散在するあり。それらの内、あるものは活坑なれどもその他は廃坑なり。しかして右の内、本線より私設線を炭坑の入口まで引込みおるもの七ヶ所あり。いずれも長さは二三|哩《マイル》に過ぎず。七ヶ所の内、レッド・ガウントレット、ヘロー、デスポンドのスラウ、及びハートシーズの四炭坑へ通ずる四つの引込《ひきこみ》線は本線に合する部分の軌道が取除かれおるをもって、本職はこれが探査を省けり。(右のうち、ハートシーズ坑は十年以前まで当地方主要炭坑の一として有名なりしもの)残るは他《た》の三線すなわち、
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(一)カーンストック鉄工場引込線
(二)ビッグ・ベン炭坑引込線
(三)パーシヴィアランス炭坑引込線
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なるが、この中《うち》ビッグ・ベン線は延長四分の一|哩《マイル》に過ぎず、軌条《レール》は発掘されたる石炭の山の辺《ほとり》にて尽き、途中に何ものをも見ず。次にカーンストック鉄工場引込線は、六月三日は十六
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