かの理由で支線へはいって、後から来る普通列車を待避しつつあるのだろうか? もしくは、あったのだろうか? とにかく駅長は、セント・ヘレン、マンチェスター両駅間のことごとくの駅に一々電信を打ってみることにした。打電の順序で各駅から続々と次のような返電が来た――
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『臨列、五時当駅通過――コリンス・グリーン。』
『臨列、五時五分当駅通過――アールスタウン。』
『臨列、五時十分当駅通過――ニュートン。』
『臨列、五時二十分当駅通過――ケニヨン。』
『臨列、当駅通過せず――バートン・モス。』
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駅長と運輸課長とは驚きの余り顔を見合せた。
『僕は三十年も鉄道に勤めてるが、こんな狐に憑《つ》ままれたような事件は初めてだ。』と駅長が言った。
『ほんとうに開通以来未曾有の出来事です。ケニヨンとバートン・モスの間で何か椿事が起ったのですな。』
『だが僕の記憶にして誤《あやなり》なければ、両駅間には支線は一本も無いはずだ。どうしても、本線を走って行ったものとしか思われんがな――』
『といって、その短距離列車が同じ本線の上を………?』
『フード君、けれども外《ほか》に考えようが無いではないか。本線を進行したものとしか考えられんではないか。たぶんその短距離列車は、何等かの手掛りになるような事実を見たろうと思う。よし、もう一度マンチェスターへ打電してみよう、それからケニヨンへも打電して至急バートン・モスまでの線路を取調べるように請求してみよう。』
マンチェスターからの返電は三分と経たないうちに来た。
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『今もって何等かの報道なし。短距離列車の機関手も車掌もケニヨン、バートン・モス間に何等かの変事を見ず――マンチェスター。』
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それから三十分が過ぎた。そしてケニヨンの駅長から次の返電が来た――
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『臨列の行方不明。当駅を通過したるもバートン・モスに到着せざること確かなり。貨物車の機関車を利用して本職自らバートン・モスまで行く行く調査したるも何等の変事無し。』
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駅長は困惑して髪の毛を掻むしった。
『こりゃ驚くべき発狂だ、フード君!』と彼は叫んだ。『この昼日中《ひるひなか》、この英国で、列車が空中に消えて無くなろうとは! 実に辻褄の合わない話ではないか。
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