たら……そうさ、船員はみんな命を賭けなければならんと思うよ。もっとも、そんなことは、わしにはたいしたことでもないのだ。なぜと言えば、わしにとってはこの世界よりも、あの世のほうが余計に縁がありそうなのだからね。だが、正直のところ君にはお気の毒だ。わしはこの前われわれと一緒に来たアンガス・タイト老人を連れて来ればよかった。あれならたとい死んでも憎まれはしないからな。ところで、君は……君は、いつか結婚したと言ったっけねえ」
「そうです」と、わたしは時計の鎖についている小盒《ロケット》のバネをぱくりとあけて、フロラの小さい写真を差し出して見せた。
「畜生!」と、彼は椅子から飛びあがって、憤怒の余りに顎鬚《あごひげ》を逆立てて叫んだ。「わしにとって、君の幸福がなんだ。わしの眼の前で、君が恋《れん》れんとしているようなそんな写真の女に、わしがなんの係り合いがあるものか」
 彼は怒りのあまりに、今にもわたしを撲《う》ち倒しはしまいかとさえ思った。しかも彼はもう一度|罵《ののし》ったあとに、船長室のドアを荒あらしく突きあけて甲板《デッキ》へ飛び出してしまった。
 取り残された私は、彼の途方もない乱暴に
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