それを火の中に投げこんでしまったのでした。その後は別に彼の女はそれについて何も云いませんでしたし、私もまた約束にしたがって、そのことについては一言も触れませんでした。しかし彼の女は、それ以来はずっと、一つの不安にとざされていて、とかく顔色が浮かなくなり、何ごとかにビクビクしているようでした。まあ俺を信ずるがよい。俺こそは彼の女の、最もよい伴侶なのだ。私はそう思っていました。しかし彼の女が云い出すまでは、私は切り出すことは出来ません。しかしホームズさん、くれぐれもお含みを願いたいのですが、彼の女はたしかに真実な女性で、もし彼の女の過去に、何か難題のようなものがあるとしても、それは彼の女の欠点ではないと思うのです。私はただノーフォークの田舎者にすぎないのですが、しかしそれでも、英国では第一流の旧家であると云うことは、彼の女はよく知っており、また結婚前からも認めていましたから、まさか彼の女は、その私の家名を汚すようなことは、万々《ばんばん》無いと私は確信するのです。
 さていよいよこれから、私の話は、奇怪な部分に進みますが、一週間ばかり前、――そうです先週の火曜日でした。私は窓硝子の上に、こ
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