は遥に離れた処に生活している人に相違ないと思われた。彼が室《へや》の中に入って来た時に、どこか強健なきびきびしたような、東海岸独特の香《におい》が、ただよって来るようであった。彼は我々二人と握手を交わして、さて腰かけようとした時に、私が見て机の上に置いてあった、不思議な記号のようなものに目を止めた。
「ああホームズさん、――これをどう云う風にお考えになりましたか?」
 彼は叫んだ。
「あなたは大変、奇妙な神秘的なことをお好きでいらっしゃるそうですが、しかしこれはまた一段と、奇妙不可思議なものでしょう。私はあなたが、私が来る前に研究しておかれるようにと思って、前もってお送りしたわけです」
「これはたしかに奇妙なものですな」
 ホームズは云った。
「ちょっと見れば、子供の悪戯画《いたずらがき》のようにも思われるし、また、紙の上を踊りながらゆく、でたらめな小さな姿の、絵のようでもありますね。一たいこんな変な、得体の知れないものに、どうしてそんな勿体振った意味をつけようと仰有るのですか?」
「いや、私は決してそう云うつもりではないのですが、ただ私の妻が大変なのです。実は妻が全く気絶するほど、こ
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