宅しなければなりません。私はどんなことがあっても、妻を一人で夜を暮させることは出来ません。彼の女はもう非常に神経質になっていて、どうしても僕に帰宅するようにと云うのです」
「いや、それは御もっともです。しかしもしあなたが、滞在しておられるなら、一両日中にはあなたと一緒に出かけることが出来ると思いますが、――とにかく、この紙は置いて行って下さい。私はごく最近にお訪ねして、この事件に対しては、多少の吉報を齎《もたら》すことが出来ると思いますから、――」
 シャーロック・ホームズは、この訪客が立ち去るまでは、いかにもその職業的な、冷静を保っていたが、しかし彼の容子を見なれている私には、彼は内面では、ひどく昂奮《こうふん》しているに相違なかった。ヒルトン・キューピットの広い脊中が、扉《ドア》の外に見えなくなるや否や、彼は机の上に走り寄って例の舞踏人画の紙を取り出して並べて、とても大変なこみ入った計算を始めた。
 二時間ばかりの間、――彼は何枚も何枚も、数字と文字を書いては、その仕事に没頭した。全く私がその室《へや》にいるのさえも忘れて、一生懸命に続けた。ある時は多少に仕事が進むもののように、口
前へ 次へ
全58ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドイル アーサー・コナン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング