も世の中には知れなかった。ホトスパー号は、それから、すばらしい航海を続けた後、シドニーに私達を上陸させてくれた。そこでエバンスも私も名前をかえて、共に鉱山に出かけて行った。そうして、あらゆる国から集《あつま》って来ている人々の間にまじって、私達は私達の過去を容易に葬り去ることが出来た。
それから後の話はもう話す必要はあるまい。私達はお金持ちになった。私達は旅行をした。私達はイギリスに金持ちの移民として帰って来た。そうして田舎に土地を買った。二十数年あまり、私達は平和な公共的な生涯を送った。そして私達はもはや私達の過去は永久に葬り去られたものと信じていた。――ところが突然に私を尋ねて来た、例の水夫を見て、それがあの時難破船の破片から救い上げた、その男であるとわかった時の、私の気持と云ったらどんなだったろう。彼は私達の弱身につけ込んで私達をおどかして暮して行こうとしていたのだ。今になればお前は、あの時私が彼と平和に暮して行こうとしていた理由を了解してくれるだろう。そうしてまた、私が感じていたおそろしさにも同情を持ってくれるだろう。今や彼は私から遠ざかって、彼のもう一人の犠牲者の所へ出かけて
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