詐欺手段で有名なロンドンの商人から、莫大なお金を取ったのだった。
「よしよし。君は俺の事件をしっているな?」
 彼は自慢そうに云った。
「ええよく知っていますよ」
「じゃア、君はその事件で何か不思議なことのあったのを、覚えているだろう」
「さあ、何でしたっけね?」
「俺は二十五万両ばかり取ったんだ」
「そんな話でしたね」
「しかしちっとも、取戻されなかったんだぜ。え?」
「知りませんでした」
「そうだろう。君はそれはどこにあると思う」
 と、彼は云った。
「わかりませんね」
 と私は答えた。
「ちゃんと俺れの手の中にあるのさ」
 と彼は叫けんだ。
「俺は、君が君の頭の上に持っているものよりも、もっとたくさんのお金を持っていて、それの使い方と、撒き方とを知っているなら、君はどんなことでも出来るよ。とすれば、どんなことでも出来る人間が、支那の海岸を廻って歩く、こわれかかった、古ぼけた、ねずみや船虫の棲家になっているこの厭な臭いのする船の中に、とじ込められて辛棒《しんぼう》しているなんてことが、考えられるかい。――無論考えられないさ。そう云う人間は自分自身のことも、考えるだろうし、それから自
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