ふ》描《か》いて来たのは男雛《をとこひな》の画《ゑ》であつた。
 十一日
 床《とこ》を上げたり座敷の掃除をして居るうちに急に今日《けふ》は人並な朝飯《あさはん》を食べて見ようかと云ふ気になつた。オートミルを火に掛けるのを廃《や》めさせて子供と一緒に暖い御飯を食べた。文士の決闘を書いたと云ふ良人《をつと》の原稿はまだ新聞に出て居なかつた。防水剤の話が丁度その欄に載つて居たので読みながら買つて見ようかなどゝ思つた。日々《にち/\》の歌を詠んで万朝報《まんてうはう》の歌を選んだ。昼の白魚の吸物がおいしくなかつた。朝に御飯を食べたせいかも知れない。源氏の原稿を清書して居る処《ところ》へ廣川さんが来た。話しながら私は去年の五月の初めにこの人などと一緒にした旅が頻《しき》りに思ひ出された。煙草《たばこ》をすゝめるとクロノースを二本廣川さんは飲んだ。光《ひかる》と秀《ひいづ》が帰つてから女の子を伴《つ》れて湯屋へ行つた。醜い盲目《めくら》の娘さんが連れの娘さんにおしろいを附けて貰つて居た。帰り途《みち》で、
『母様《かあさん》目の見えない人が居ましたね。』
『あの人のお友達は親切でせう。』
『顔も
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