伺つて二階のお座敷で一時間程先生とお話をした。曙町の藤島さんへ行つたらもう光《ひかる》の帰つた後《のち》であつた。隠居さんの御病気はもう癒《なほ》つて今日《けふ》から起きたと云つておいでになつた。お雛様の前で隠居さんとお話をして居る処《ところ》へ奥様は御馳走を運んでおいでになつた。先生が画室から帰つておいでになつた。紅梅《こうばい》が美くし[#「美くし」は底本では「美しく」]かつた。帰りに画室にお寄りしていろいろの画《ゑ》を見せて貰つた。こんな部屋が欲《ほ》しいなどゝ珈琲《こーひ》を飲みながら思つて居た。壁画《かべゑ》に書いておいでになる桃の花が暖い息を吹いて居るやうにも思つた。弓町の江南さんへも寄つた。二階から降りて来た時秋子さんの片一方の八ツ口から紫の襦袢の袖が皆出て居た。人が道具の中に沈没して居るやうな座敷である。古い原稿紙で障子が張つてあつた。平出さんにも一寸《ちよつと》玄関で用事を云つて帰らうと思つて寄つたが留守だつたから奥様に頼んで置いた。古尾谷《こをたに》さんが私の出た後《あと》へ来て下すつたさうである。某々二氏の土産《みやげ》のお菓子を桃が見せた。光《ひかる》の今日《け
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