人に遣つた。二階へ行つて話して居る処《ところ》へ松本さんが来た。お照さんは歌を二つより持つて来なかつた。今日《けふ》は菊五郎|格子《がうし》の着物も着て来なかつた。お納戸地のあらい井桁の羽織を着て居た。可愛い顔をした人だと今日《けふ》も思つた。松本さんは入《はい》つて来た時に大きい背丈の人だと今日《けふ》も思つた。昨日《きのふ》の仮装会の帰りだと云つて阪本さんが車夫姿で来たから驚いた。良人《をつと》の手紙が配達された。謝肉祭《カイニバル》のことなどが書いてあつて、それから写真が着いたと云つて子供の顔がよく写つて居ない、私の焼鏝《やきこて》を当てた髪を下宿の細君が賞《ほ》めた、桃をふらんす人が美くしいと皆|賞《ほ》めるなどゝ書いてあつた。午後私は車に乗つて本郷へ行つた。生田《いくた》さんへ最初に行つたが生田さんはお留守であつた。奥様とお話して一時間程でお暇《いとま》した。庭からお座敷へ通る時の気持の好《い》い家だけれど、夢の中でよく入《はい》つて行《ゆ》く家のやうな暗い玄関は忘れたい気がする。千駄木町の平野さんの家へ行つて老夫婦に逢つた。大連|行《ゆ》きの支度で忙しさうであつた。森さんへ
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